【Common Journal vol.9 「inagawa yakuzen 稲川由華さん」】

コモンにまつわる日常の風景や物語をお届けする『Common Journal』。第9回目のゲストは、漢方薬膳に基づいた食にまつわる活動をしている「inagawa yakuzen」の稲川由華さんです。今回は、東京西海株式会社(東京都世田谷区・用賀)の、Tokyo Saikai Showcaseへ稲川さんをお招きし、漢方との出会いや活動について、家庭で楽しめる薬膳茶の淹れ方などを教えていただきました。

その場がぱっと明るくなるような笑顔が素敵な稲川さん

まず、稲川さんと漢方との出会いについておうかがいしました。

「前職で印刷会社にて働いていた際、薬剤師の方の新しいお店の看板デザインを担当することになりました。そのお店では、個人の方に向けてのカウンセリングを通じて、本人に合った漢方を提供していると知り、カウンセリングを受けてみることにしました。そこで身体の不調について話した際に、それに付随して体質など細かなところまで言い当てられたんですね。この体験をきっかけに、漢方に対する興味が芽生えました」

その後、稲川さんはコロナ禍で生まれた時間を活用し、漢方を扱うスクールへ通い、本格的に漢方について学び始めます。「inagawa yakuzen」として活動するに至るまでの経緯もおたずねしてみました。

「段々と学んでいくうちに、『漢方は自分に合っているな』と確信するようになって。漢方を通して、自分の身体や心といった内面へも意識を向けるようになり、『自分が今何を必要としているのか』を見つめ直すことができました。私の性格として、人と話すことが好きであったり、その人が何をどう感じて行動するか、といった人の本質的な思考や情緒に興味があるのですが、私の根本にある、人を元気付けたい!という思いと漢方への情熱が相まって、『自分らしい形で何かを始めたい』という決意が固まりました」

漢方の知識を深める中で、特に興味を惹かれたのは、「食を通じて心と体を整える」という考え方だったという稲川さん。コロナ禍によるおうち時間は、日々の生活を見直す良い機会となり、漢方を実生活に取り入れるきっかけを与えたといいます。

こうして稲川さんは程なくして印刷会社を退職し、「inagawa yakuzen」を立ち上げられました。

「食べることがもともと好きだったので、漢方薬膳を取り入れた食品やお茶、チャイシロップを提供することに加えて、イベントやワークショップでは人と対面で関わることも大切にしています。食事の中で手軽に取り入れられる薬膳や、食べる楽しさを通じて人に元気を届けることを目指しています!」

人気の「AMMIN CHAI」は、牛乳や豆乳、炭酸などで割って楽しめるチャイシロップ

取材した時期は、二十四節気の大寒。大寒は、冬の最後の節気とあるように、冬一番の厳しい寒さが身に染みる頃。今回、稲川さんに家庭でも簡単に取り入れることができる、この時期おすすめの薬膳茶や、AMMIN CHAIを使ったレシピをCommonのガラスシリーズを使用し、レクチャーいただきました。

〈ローリエ(月桂樹)入りのお白湯〉

1)ガラスポットにローリエを二、三枚ちぎり、お湯を注ぐ

2)3分位待つ

3)ガラスマグに注いで完成

香りでストレス軽減、整腸作用の効果があるとされています。

ローリエの葉は裂かないといい香りが出ないので、ちぎってからお湯を注ぐことがポイント

〈シナモン入りのお白湯〉

1)ガラスポットにシナモン1本を折って入れ、お湯を注ぐ

2)3分位待つ

3)ガラスマグに注いで完成

体内の水分の巡りを良くし、排出作用があると言われています。

透明なガラスポットがうっすらと色づき、シナモンの香りが広がる。身体がポカポカと温まる、飲みやすい白湯の出来上がり。シナモンはパウダーでも代用が可能。

〈AMMIN CHAIを使った豆乳ラテ〉

1)豆乳を温める。

2)きび砂糖、紅茶、竜眼、シナモン、蓮の実、カルダモン、クローブ、八角、ナツメグ、枸杞の実を煮出して作ったAMMIN CHAIシロップを、ウォーターグラスに大さじ1位入れ、豆乳を注ぐ。

(フォームミルクにしても口当たりまろやか)

お好みでシナモンパウダーを一振りして完成。

レシピは豆乳だが、牛乳でもOK。ミルクの自然な甘みもあるので、シロップは少し控えめに

〈AMMIN CHAIのレモンソーダ割り〉

1)AMMIN CHAIシロップを氷入りのウォーターグラスに大さじ1位入れ、炭酸水を注ぐ

2)くし切りしたレモンをぎゅっと絞り、よく掻き混ぜて完成。生姜をすりおろして入れても美味しい。

ソーダ割りは稲川さんのイチオシの飲み方

〈バニラアイスクリームのAMMIN CHAIシロップがけ〉

1)アイスを2スクープほど、カップに入れる

2)AMMIN CHAIシロップを少量回しかけて完成。ヨーグルトにも良く合います。

今回は、ローリエやシナモンといった、自宅のキッチンにある身近な材料や、スーパーで簡単に手に入るものというテーマで作っていただきました。稲川さん曰く、その時々で身体が自然と欲するものを摂取したり、旬を取り入れることが薬膳であると言え、なによりも身体を冷やさないことが健康の秘訣なのだとか。

稲川さんのもうひとつの活動である「あんぎゃ対話」についてもおたずねしてみました。

「『あんぎゃ対話』は、自分が興味を寄せている人に声をかけて話を聞き、必要最低限の編集の元、ほぼありのままをウェブ上で公開する対話のプロジェクトです。対話を音声のみで共有するのは、ちょっと言葉が軽く感じてしまうというか。対話の文章を蓄積していくことで、言葉の重みが伝わるように心がけています。『あんぎゃ対話』は、根っこにある考え方や価値観を探る手段でもあると思っています」

「あんぎゃ対話」を通じて見えてくる、話し手側の価値観や思いを丁寧に拾い上げ、それを文章として表現すること。稲川さんにとって「あんぎゃ対話」は単なる会話ではなく、相手や自分自身を深く理解するための重要な手段であることや、読者にもその温度感や情感をそのままリアルに伝えることを大切にされていることがわかりました。

また、近年東京から京都へ活動拠点を移されたことについても、現在の心境をおうかがいしました。

「京都での生活は、自然な流れの中で決まりました。よく利用していた京都のゲストハウスのオーナーさんが新しくカフェを運営することになって。そこでのイベントに参加することになり、それがきっかけでオーナーさんと話が進み、京都で仕事と住まいを提供されるという好条件付きのお誘いをいただいて。夫へも承諾をもらってトントン拍子で移住が決まったんです!」

「京都は、東京に比べて人も少なく、自然が豊かです。山や川といった自然との距離が近く、そこからインスピレーションを得ることもありますし、アイディアの源泉になっています。それから、電車に乗る機会が減って、自転車での移動を中心とした生活が始まりました。自転車で街を巡る時間は、電車とは違って自分のタイミングや意思で行動することができるし、自分と対話するひとときでもあり、これも新たな発見でした!」

その時々の「流れ」を常にキャッチすることや、直感で感じたことには身を任せることがこれまでの人生で大切にしてきたことだとお話しくださいました。京都へ移住する際も、不思議と不安は一切なく、これまで以上に心と体のつながりについて意識を向けやすくなったそう。

現在、稲川さんは「あんぎゃ対話」のこれまでの記録を書籍として出版する準備を進めています。2025年には、この本の出版に関するイベントを通して、より多くの方に思いを届けたいと考えています。一方で、「inagawa yakuzen」の活動も無理のないペースで引き続き継続していく予定だそう。稲川さんのこれからの活動が楽しみです。

「病は気から」という諺があるように、稲川さんから寒さや邪気も吹き飛ぶような沢山の笑いと元気を終始いただきました。Tokyo Saikai Showcaseでの楽しい時間をありがとうございました!

〈プロフィール〉

稲川由華

1992年、新潟県新潟市出身。服飾大学卒業後、印刷会社で企業等のオリジナルグッズ制作に携わる。2021年に独立。フリーとして制作の仕事をつづけるかたわら、漢方薬膳に基づいた食に関わるさまざまな活動として「inagawa yakuzen」をスタートさせる。

website:稲川由華のホームページ

Instagram: @inagawa yakuzen

撮影: 阿部健 @t_a_b_e