【Common Journal vol.10 「tsunagu。。。 中川あやこさん」】

コモンにまつわる日常の風景や物語をお届けする『Common Journal』。第10回目のゲストは、金継ぎ漆芸教室『tsunagu。。。』を運営されている中川あやこさんです。

今回は、世田谷区にある中川さんの工房兼金継ぎ漆芸教室を訪ね、お話を伺いました。

30代を迎え、ライフスタイルの変化とともに料理を作る機会が増えたという中川さん。

器にも関心を持ち始め、いろいろと集めるようになりましたが、お気に入りの器を割ってしまったことが、金継ぎとの出会いのきっかけでした。

「もともと何かを作ったりDIYするのは好きで、器も直せるんじゃないかと調べてみたら、一日で直せる『簡易金継ぎ』というものを知りました。

実際にやってみて確かに直ったんですが、簡易金継ぎに使用する合成接着剤の匂いが気になって、器として使うのに抵抗がありました。そうして調べるうちに本物の漆で直す方法に出会ったんです」

そうして金継ぎ教室に通い始めたのが、中川さんの金継ぎの活動のスタートだったといいます。

「金継ぎにのめり込む中で、金継ぎも大きくは漆芸の世界であることを知り、漆自体にも興味を持つようになりました。1年間金継ぎ教室でも働いてみたのですが、自身の経験も知識も浅いまま生徒さんに教える事に疑問を感じ、しっかり基礎から学びたいと思うようになりました。輪島に漆芸を基礎から学べる学校があることを知り、当時40歳でしたが本気で漆を学んでみたいと思い、2022年に入学と移住を決心しました」

こうして中川さんは石川県輪島へ移住をし、石川県立輪島漆芸技術研修所で漆についての基礎や技術について学びます。こちらの学校では、漆芸を習得するための基礎として、木地への下地、上塗り、加飾の沈金、蒔絵などを学ばれました。

「輪島や、各地で活躍する漆芸作家さんや職人の先生から多くのことを学びました。学校以外でも漆を生業としている職人さんや作家さんと直接お話しする機会があったり、原料であるウルシの木の植栽や漆掻き*、ウルシの木を使った染めなど、産地ならではの貴重な体験が沢山できました」

漆掻き*:ウルシの木に傷をつけて樹液(漆)を採取する作業

そんな中、2024年の1月に発生した能登半島地震により輪島は甚大な被害を受けてしまいます。

冬季休暇中で、中川さんは旦那さんのいる東京へ戻られていたため被害は免れましたが、輪島で引き続き学校に通うことは難しくなってしまいました。

「震災によって輪島での生活は厳しくなりました。やむを得ず、夫のいる東京へ戻ることに。予期せぬ出来事で震災後は被災地に家財を取りに行ったり、富山大学に卒業作品を制作に行ったりと、しばらくは落ち着かない日々を過ごしました。

卒業後の仕事についても考えていましたが、2023年に新木場の『CASICA』で開催した金継ぎ教室をきっかけに、生徒さんとの繋がりもできていたため、家の近くで何かできないかと考えていたところ、いい物件が見つかり金継ぎ漆芸教室をスタートしました」

漆を硬化させる漆風呂には教室の生徒さんの作品が並ぶ

震災により、思わぬ移住となりましたが、金継ぎ教室の開始にも恵まれ、都内を中心に中川さんの教室へ生徒さんが集まるようになりました。

金継ぎを通して知った漆芸についても中川さんにお聞きしました。

「輪島に移住し、現地の人と話すうちに、金継ぎのその更に奥に『漆芸』という大きなものがあって、それを活性化させる必要がある事を感じました。職人さんたちは、作ることは好きで楽しみながらやっているんですが、その魅力をうまく伝えられない方もいて。

そうした魅力を、私が代わりに伝えることができるんじゃないかって思ったんです。輪島に移住した事をきっかけに漆への想いが変わっていきました」

漆を塗る漆刷毛。柄の部分には毛が仕込まれており、鉛筆のように先端を削り出して使う。

コモンでも、2020年から追加になった汁椀では天然の漆を使用しています。コモンの汁椀についても中川さんにその印象をお聞きしました。

「手に馴染む感じがしっくりきていいですね。高さが低く横に広いのも他に無い感じでいいです。

こちらは福井で作っていると聞きましたが、福井も漆が盛んな地域ですよね。輪島は分業制で工程が多く、一点一点値が張るものが多いですが、福井は中量生産の産地なので、日常食器として生産するのにはCommonに適した産地だと思います」

Common汁椀(赤)

コモンの汁椀は福井のメーカー「福井クラフト」で生産いただいています。

本体の素材は樹脂に木粉を混ぜ合わせた木乾(もっかん)と呼ばれるものを使用し、丈夫さと日常食器として使える気軽さを持たせつつ、木材に近い素材を選びました。塗装には天然の漆を使用しており、安心してお使いいただけます。

「漆は100年かけて硬くなると言われています。乾いて間もない漆は、空気と反応した漆が濃く見えるのですが、時間が経つにつれて漆の色が透けてくるので、その奥にある顔料の赤みが引き出されていきます。

お見せいただいたコモンの汁椀の色が変わっているのも、漆の経年変化と、使用する中で自然に出てきたツヤによるものですね。こうして変化を楽しみながら長く使い続けられるのも漆の魅力だと思います」

未使用のCommon汁椀(左)と、5年間使い続けたCommon汁椀(右) 表面に艶が出て、赤みが強く変化している。

漆器の扱い方、お手入れの方法についても中川さんにお聞きしました。

「漆器は扱いが難しそうという方もいらっしゃいますがそんなこともなくて、他の食器と別物扱いせずに中性洗剤で普通に洗っていただいて全然大丈夫です。ザラザラした硬いスポンジは使わず、柔らかいスポンジの方がいいですね。お水で流した後は、柔らかい布巾で軽く拭き上げると長くお使いいただけると思います。ただ、紫外線には弱い素材なので、日の当たるところは避けてもらった方がいいですね」

最後に中川さんの今後の活動についてもお聞きしました。

「漆はもちろんですが、日本の産地の作り手と使い手をつなげるような取り組みができればと考えています。今年の3月28日にも輪島塗りをされているYUKAKUさんが作るお椀と、日本料理の御料理 辻さんとのコラボレーションイベントを西麻布で開催しました。作家さんが作るお椀を使って御膳を提供していただき、お料理を食べながら作家さんともコミュニケーションが取れるイベントで、多くの方にご参加いただきました。こうしたイベントや企画を、漆だけに留まらず、全国の産地の方と一緒にやっていけたらと考えています」

イベントでのお料理提供の様子  写真提供:中川あやこさん

今回、Commonの割れた器を中川さんに金継ぎしていただきました。

その様子を一部ご紹介いたします。

【金継ぎの様子】①割れた器を漆で繋ぐ様子

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金蒔きを施して完成です   撮影:西海陶器

【金継ぎの様子】②粉蒔きの工程

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しっかりと硬化させて完成です   撮影:西海陶器

人と人、産地や作家さんとユーザーとの架け橋になりたいと語る中川さん。金継ぎだけでなく、移住した先の輪島で芽生えた中川さんの想いが、「tsunagu。。。」の屋号に表れていることを知ることができました。

高齢化による後継者不足など、全国の地場、伝統産業の抱える課題は多くありますが、こうして中川さんのような方が間に入り、魅力を最大限に伝えていくことで産地や産業に関わる人々が支えられ、繋がっていくことを私たちも願っています。

〈記事内紹介商品〉

Common Soup Bowl 120 mm Red

¥4,000

〈プロフィール〉

中川あやこ
tsunagu.。。。金継ぎ漆芸教室主催/プランナー

1981年栃木県生まれ。

文化服装学院卒業後、アパレル会社でデザイナーとパタンナーに従事。

趣味で始めた金継ぎをきっかけに漆芸に目覚め、輪島漆芸技術研修所に入所し漆芸や産地について学んだ。

漆を広める活動の一環として2024年金継ぎ漆芸教室を開業。

日本の手仕事を広げる為にモノ、ヒト、コトをつなぐ活動を行っている。

instagram:@tsunagu.ooo

撮影: 阿部健 @t_a_b_e