【Common Journal vol.6「norm tea house・長谷川愛さん」】
コモンにまつわる日常の風景や物語をお届けする『Common Journal』。第6回目のゲストは、茶葉屋『norm tea house』店主の長谷川愛さんです。日本各地のお茶農家へ自ら足を運び、生産者との交流や丹精込めたお茶づくりに触れ、厳選されたお茶をお店で提供する他、お茶を多くの方へ広めるために精力的に活動されている長谷川さん。Common Journalでは、長谷川さんとお茶との出会いや、お店で提供するお茶について、これからのお店のことなどをお聞きしました。
東京都台東区三筋にて2021年11月にオープンした『norm tea house』は、蔵前駅、新御徒町駅、田原町駅といった各駅から徒歩10分程の場所にあります。下町情緒溢れる町並みを歩いていくと、住宅街の中に馴染んだ二階建ての一軒家が現れます。デザイナーの小林一毅さんがデザインされたというロゴマークの看板が目印。
お店に一歩足を踏み入れると、約5坪ほどの店内の広さが茶室のようでもあり、長谷川さんの親しみやすい朗らかなお人柄もあって、「いらっしゃい」というよりは「おかえり」と迎えられているような、そんなアットホームな空間が広がります。外観や内装の一部は、ほぼ当初のままの姿を活かしつつ、一階は味のある階段や柱、窓などを残して、カウンター側には大テーブルを新たに配置した空間に。日中には、二階の吹き抜け窓から柔らかな陽が入り込み、クリーム色の店内の雰囲気と相まって、季節や時間の移ろいを感じさせてくれます。
まず、長谷川さんとお茶との出会いについておうかがいしました。「最初は、友人が住む海外に滞在しながらバリスタの仕事をしてました。そこでは、コーヒー豆の農作地に出向いたり、カフェでバリスタとしてコーヒーを淹れたりしていたのですが、現地では、日本人ということもあり抹茶を点ててほしい、と頼まれる機会が何度かありました。海外で過ごしているうちに、日本の文化やお茶についてもっと知識を深めたいと思うようになりました。帰国後、茶園の産地へ遊びに行き、茶摘みや製茶を手伝ったり、生産者の方との交流を育んでいく中で、どんどんお茶の魅力にはまっていったのがきっかけですね」
将来的には、海外で暮らしたいと考えていたという長谷川さんですが、国産のお茶の魅力に惹かれ、茶園での生産者の方々との出会いによって、まだ日本にはあまり広まっていなかったティーキュレーターの道を開拓し始めました。帰国後、ご縁が繋がり東京・青山の国連大学前で催されたお茶の祭典『Tea for Peace』の立ち上げメンバーとして企画ディレクターを務め上げ、その後ご自身のお茶のブランド『norm』を手掛けます。
『norm tea house』の店名の由来についてもおたずねしてみました。
「『norm』という名前の意味は、読み通り『濃霧』という意味合いがあります。濃い霧がかかる茶畑の景色や、そこでの湿度をまとった緑の香りや森の気持ちの良い新鮮な空気が大好きで。あとは、『normal』という意味で、特別なお茶というよりは、日常に取り入れてもらえるようなお茶文化が広まってほしいという意味も含んでいます」
また、幼少期を福岡県で過ごしたことや、特にゆかりの深い茶園が宮崎県にあり、よく住み込みで手伝いに行くことから、コモンの生産地である長崎・波佐見や波佐見焼のこともかねてより身近に感じていたといいます。コモンの食器も、「普遍的な」「普通の」「身近な」といった意味のコンセプトが込められていますが、毎日の暮らしに寄り添う存在という意味で、店名の由来とも重なる部分があり私たちも一層親近感が沸きました。
今回、長谷川さんにコモンのワイングラスと新作の耐熱ガラスポット(HARIO社協業)を使って、実際にお茶を淹れていただき、使い心地をおうかがいしてみることに。
「まず、ワイングラスですが、ステムの部分がちょうど良い太さなのが素敵ですね。サイズ感も小ぶりで、様々な場面でカジュアルに使えそうです。飲み口も厚みがない(薄すぎず、厚すぎない)ことで飲みやすく、絶妙な厚みであることはとても重要です。
そして、耐熱ガラスポットは、ストレートな形状と数人分淹れられるサイズ感が良いですね。ステンレスの茶漉しが深く大きな容量であることは、茶葉の対流を促す上で大切なポイントなんです。注いだ際に注ぎ口から液垂れしないことや、お湯の出が悪いといったことがなく、それは当たり前のことを言っているようですが、使用する上で安心安全で、支障がないというのは日々使用する上で大事なことだと思います!」
長谷川さんのお店では、カウンター越しに会話をしながら、選んだお茶の説明を聞くことができたり、目の前で美しい一連の所作を拝見することができます。常時、お店で何種類のお茶を取り扱っているかも聞いてみました。
「大体、15〜16種類ほど取り扱っています。大きく分類すると、緑茶、紅茶、焙じ茶、烏龍茶の4種を、それぞれ4種くらいずつ取り揃えています。一部は通年お出しできますが、季節によって変わる茶葉もあります。常にお店に出すためには、ブレンド茶(合組)にすることが必要なのですが、一般的なお茶屋さんでブレンド茶を買う際に、味についての説明が何も無いのがつまらないなと思って。なのでお店では、シングル*で提供することに重きをおいて、お客さんに品種や産地などを直接伝えながら、お茶を通して自然と生まれるコミュニケーションを大切にしてきました」
シングル*: 特定の地域や農園で作られる単一品種の茶葉から作られるお茶のこと
最近は、ブレンド茶もお茶の導入口として親しみやすいものだと思い、二種類のオリジナルブレンド茶の取扱い(FOREST and AMBER)も始めたそう。
普段、お気に入りの茶器を使う際の愉しみ方について、長谷川さんの実体験を元におうかがいしました。「普段のお茶のシーンに、もっと気軽に取り入れてもらいたいという思いから、お店では取扱いが難しい茶器をなるべく使わないようにしています。お茶を飲むタイミングは、生活の中で2パターンあると思っていて。一つは、朝とかにあまり考えずにお茶を淹れて、さっと飲みたい時。もう一つは、茶海、カップ、急須などお気に入りの茶器を並べて、空間そのものも含めて愉しむ時。子どもの頃にやったおままごとに近い気持ちですね。その時の気分に合わせて、茶葉を選び、好きな道具に囲まれてお茶の時間を愉しむ、その自由で気持ちの良い時間に心が満たされます」
普段は二児の母としての顔も持つ長谷川さん。育児に仕事に忙しなく走り抜ける日常だからこそ、ほっと一呼吸おく時間を大切にしていると言います。
最後に、今後の展望について聞いてみました。
「まず、お茶をより多くの方に知ってもらう場所として、引き続きお店の『持続』が目標です!そして、もう一つはずっとこれまで温めてきたお店の二階を『sabō』としてオープンすることです。ここでは、予約制でお茶のコースをゆっくりと愉しんでいただく場として、また作家さんの個展を開催したり、子ども向けのお茶会を開催したりと、一階のカウンターよりももう一歩踏み込んだ場にしていきたいと考えています!」
今回、12月14日(土)よりオープンする『sabō』を、一足先に見せていただきました。お邪魔させていただいた際は、まだ改装途中でしたが、壁の塗装もご自身で手を加えて作り上げていくと話してくださいました。ロングテーブルの周りには、子どもにも丁度良いサイズの椅子が並びます。一階は、気軽にふらりと訪れることができるような場として、『sabō』では、お茶と共に時間や空間そのものも愉しめるような場を提供していく予定だそう。
軽やかでありながらも、持ち前の明るさを携えて、わくわくするような新たなウェーブを生み出し続けている長谷川さん。「人が好き」という彼女の周りには、老若男女問わず多くの人々が絶えず集っていました。お茶を通して、人々が交わる場を様々な形で提案する長谷川さんのご活躍がこれからも楽しみです。お茶の魅力を存分に愉しめる『norm tea house』へぜひ足を運ばれてみてはいかがでしょうか。
〈プロフィール〉
長谷川 愛
norm主宰。ティーキュレーター /「Tea For Peace」「OCHA PARK」ディレクター
生産者を集めたお茶の祭典「Tea for Peace」のディレクターとして、2017年よりイベントに携わりながらコミュニティの輪を広げ、自身のお茶ブランド「norm」 を始動。2021年11月、台東区の蔵前エリアに実店舗「norm tea house」をオープン。地域に根差したお茶屋として気軽にお茶を楽しめる空間を提供しながら、日々、喫茶文化の入口を広げている。「norm」として国内外での茶葉販売や茶会、イベントを開催。2024年10月には、東京渋谷区の宮下パークにて、日本国内のお茶生産者や茶屋を集めた「OCHA PARK」のディレクターを務める。2024年12月中旬に、「norm tea house」二階を改装し、お茶を愉しむ新たな場所として「sabō」をオープン予定。日本茶の新しい愉しみ方をさまざまな形で提案する。
norm tea house
〒111-0055 東京都台東区三筋1丁目11-8
OPEN: 月土日金 11:00〜18:00(定休日:火〜木)
– 12月7日(土)より、11:00〜13:00の時間に限り、軽食メニューをスタート
– 12月14日(土)より、二階「sabō」グランドオープン(完全予約制)
– 年内は12月28日(土)まで、新年は1月6日(月)より通常営業再開
website: https://normtea.myshopify.com/
Instagram: @normteahouse
撮影: 阿部健 @t_a_b_e