【Common Journal vol.7 「マヤノカヌレ」】

コモンにまつわる日常の風景や物語をお届けする『Common Journal』。第7回目のゲストは、北鎌倉のカヌレ専門店「マヤノカヌレ」を営む高橋浩介さんと摩耶さんご夫妻です。

禅宗のお寺が点在し、古都の趣が色濃く残る北鎌倉。駅舎のある西口を出て、県道を右手に進み20秒ほど歩くと、「マヤノカヌレ」に到着します。以前は骨董店だったというこの場所は、瓦や古材など和の雰囲気を活かした店舗デザインが印象的です。

暖簾をくぐると、柔らかな光が差し込む店内で、高橋浩介さん、摩耶さん、そして愛息子の空くんが温かく迎えてくれます。「マヤノカヌレ」は、フランスの伝統菓子・カヌレの専門店。

ただし、一般的なカヌレとは異なる特徴があります。それは「グルテンフリー」であること。アレルギーをお持ちの方や健康志向の方にも安心して楽しんでいただけるカヌレは、外はカリッと、中はもっちりした食感。ほのかな甘さと香ばしさが口の中で広がります。華やかなエディブルフラワーが添えられたカヌレは、見た目にも楽しめる一品です。

店内で使用している卵は、ストレスがなく産み落とされた「平飼いの卵」。米粉はカヌレとその他の焼き菓子で、別々の産地のものを使用しているとのこと

とにかく笑顔が素敵な浩介さんと摩耶さん。「マヤノカヌレ」に至るまでの足跡をお聞きしました。

浩介さんは高校時代から飲食業に携わり、大学からアメリカへ。「料理は五感を使った芸術だ」という教授の一言が転機となり、卒業後はニューヨークのイタリアンレストランに就職。ルームメートだったアーティストの山口歴さんと写真家の今坂庸二朗さん、また、親交の深かったアーティストの松山智一さんの影響もあり、刺激的で充足感に満ちた日々を送ります。その後、ご両親との時間を大切にするため、2015年に帰国しました。

「テニスプレイヤーのノバク・ジョコビッチの影響で、グルテンフリーに興味を持った方は多いですね。うちのお客様でもアスリートの方は多いです」と浩介さん

摩耶さんもほぼ同時期、アパレルの仕事でニューヨークに滞在。帰国後、花屋で働き、花を贈る文化を広めるべく、生花を使ったアクセサリーブランド「Stanton Street Botanical」を立ち上げました。ニューヨーク滞在時は浩介さんとは面識がなかったものの、帰国後に出会ったそうです。

お二人はご結婚後、湘南エリアでの飲食店オープンを計画しました。「人々が集い、料理やお酒を通じて笑顔が広がる光景」を目指し、奔走していましたが、時はコロナ禍。厳しい現実に直面します。さらに摩耶さんが帰国後に小麦アレルギーを発症し、食べることのできるお菓子の選択肢の少なさに悩んでいました。そんなとき、摩耶さんの一言が、お二人の運命を大きく変えるきっかけとなりました。

「大好きだったカヌレが食べられなくなり、浩介に『カヌレが食べたい』と伝えたんです。そしたら、(グルテンを含まない)米粉で作ってくれると」

「当時、米粉を使ってカヌレを作っている人はほとんどいませんでした。まずはテストキッチンを借り、レシピもなかったので、小麦を使ったレシピを参考にしながら試作を重ねました。最初は形が崩れることが多かったですね。毎回、摩耶が試食してくれて、その反応を聞くのが楽しみで。徐々に形が整い、摩耶が喜んでくれることがモチベーションになっていきました。その頃は、『これでお店を出すんだ』というプレッシャーもなく、ただ『美味しいカヌレが作れるようになったら、いろんな人に届けたいね』と話していたんです」と浩介さんは振り返ります。

愛息子の空くん(通称・店長)。梱包材の整理や試食が主な仕事です

米粉の特性に戸惑いながら試行錯誤を重ね、半年をかけて「摩耶のためのカヌレ」が完成。その後、花を生業にしていた摩耶さんのアイデアで、エディブルフラワーを載せることに。「地味な茶色のカヌレに彩りを添え、食べる方に明るい気持ちを届けたかったんです。プレーンにはビオラ、チョコレートにはバタフライピーなど、味ごとに異なる花を選びました」と摩耶さん。お二人のホスピタリティが結実し、こうして「マヤノカヌレ」が誕生しました。

店内ではコモンの食器が使われています。「コモンは何を載せてもさまになる。万能なお皿です」(浩介さん)、「お花の色、カヌレの色、ともに合うんですよね。何より使いやすいです」(摩耶さん)。最近はカトラリーも導入しました

そして、現在の物件と出会いました。「居抜き物件だったため、ショーケースが残されていて、その美しさに一目惚れしました。『ここにカヌレを並べたら素敵だろうな』と感じたんです。当初は、『北鎌倉では商売が難しい』という声も耳にしましたが、近隣には住民も多く、フラッと立ち寄れる夜のお店を併設すれば、喜んでいただけるのではないかと思ったんです」と浩介さん。日中はカヌレ専門店「マヤノカヌレ」、夜はお酒と軽食を提供する「パーラールーム」として、暖簾を掛け替えながら運営しています。

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「美味しいカヌレ=実はグルテンフリー」という評判は、今や全国に広まりました。定番フレーバーに加え、四季折々の素材を活かした限定フレーバーも魅力のひとつです。これまでには、りんご、ほうじ茶、すだちクリームチーズなど、ユニークな味が登場しています。今後について摩耶さんは、「夫婦で話し合いながら、新しい可能性を追求し続けたいです。カヌレを極めることはもちろん、甘くないお食事カヌレなど、これまでにないスイーツにも挑戦していきたいと思っています」と話します。

「グルテンフリーを一時的に取り入れる方も増えてきましたね。グルテンフリー=美味しくないと思う方、苦手意識がある方も多いと聞きます。まずはうちのカヌレを楽しんでいただけたら嬉しいです」と摩耶さん
ギフトボックスは曲げわっぱ。木の温もりと華やかなカヌレの調和が、プレゼントに喜ばれます。特に人気なのは8個入り。オンラインストアでの購入も可能です

浩介さんが摩耶さんのためにカヌレを開発したように、誰か一人を心から喜ばせることの大切さ。それが連鎖することで、笑顔がどんどん広がっていく。お二人のお話を伺い、ものづくりにおける本質に触れたように感じました。そして、美味しいカヌレをいただきながら、心が華やぐような感覚を味わいました。

左:アップルパウンドケーキ  右:ビーツとチョコレートのパウンドケーキ

キャロットケーキ
カヌレ以外にもグルテンフリーの可能性を広げるため、2023年には2号店ソラーノベイクハウス」を江ノ島駅近くにオープン。人気のパウンドケーキやクッキー、アイスサンドなどのお菓子はいずれもグルテンフリー。マヤノカヌレでも購入できます

歴史と自然が調和する風景と凛とした空気が、多くの人々を惹きつける北鎌倉エリア。散策の途中で「カヌレに咲く一輪の花」を味わいながら、心も身体も癒されてみてください。

<店舗紹介>

マヤノカヌレ

住所:神奈川県鎌倉市山ノ内510

営業日:金土日 11:00-16:00(売り切れ次第終了)

instagram:https://www.instagram.com/mayanocanele/

オンラインストア:https://mayanocanele.official.ec/

<プロフィール>

高橋浩介

1982年、東京都生まれ。大学進学を機にアメリカへ渡り、卒業後はニューヨークのレストラン「Dell’anima」「L’Artusi」「L’Apicio」で計7年間勤務する。2015年に帰国し、グルテンフリーのスイーツ開発に取り組む。2021年にカヌレ専門店「マヤノカヌレ」(北鎌倉)、2023年に焼き菓子店「ソラーノベイクハウス」(江の島)をそれぞれオープン。「アレルギーの有無を問わず、誰もが楽しめる製品作り」を使命に活動している。趣味は休日に遠出をすること。

高橋摩耶

東京都生まれ。アパレル会社や花屋での勤務を経て、アクセサリーブランド「Stanton Street Botanical」を立ち上げる。小麦アレルギーを発症したことをきっかけに、夫・浩介と二人三脚でグルテンフリーのスイーツ開発に取り組む。現在はカヌレ専門店「マヤノカヌレ」(北鎌倉)と焼き菓子店「ソラーノベイクハウス」(江の島)を運営している。趣味はスパイスカレーの食べ歩き。

撮影: 阿部健 @t_a_b_e