【Common Journal vol.5 「クマタイチさん」】

コモンにまつわる日常の風景や物語をお届けする『Common Journal』。第5回目のゲストは、建築家のクマタイチさんです。

クマさんは、「建築におけるソフトとハードをつなぐ」ことをコンセプトに、常に物(モノ)の延長線上に建築を位置づけることを追求しています。2012年からは東京・神楽坂周辺で、「箱」と「中身」を同時に提案する『SHAREプロジェクト』を展開。設計から運営に至るまで多様なシェアスペースを手がけ、その稀有な存在感を発揮しています。今回、クマさんが新たにスタートさせた宿泊施設『SHORTsuido』(東京都文京区水道)を訪れ、その背景や独自のコンセプトについてお話を伺いました。

東京メトロ・江戸川橋駅から巻石通りを小石川方面へ歩くこと10分。右手には、現代的にリノベーションされた小さなビルが見え、オレンジのネオンが輝いています。ここ『SHORTsuido』は、1階に台湾ダイナー『BANRAI HANTEN』とコーヒーショップ『Stroll_in』、2階から4階はホテルという構成になっており、設計と運営はクマさん率いる『TAILAND』が手がけています。

「この物件との出会いは、今年のはじめに、たまたまレンタカーを返しに行く途中で見つけたんです。商店街の角にあって、独特な雰囲気が漂う、面白い物件だと感じました。また、小学生の頃から目の前の道をよく通っていたので、どこか思い入れもありました。もともと1階から3階までは中華料理屋『萬来飯店』、4階にはオーナーさんが住んでいたそうです。聞けば、2年ほど前から売りに出されていたとのことでした」とクマさんは振り返ります。

偶然の出会いを経て、クマさんはこの物件の設計と運営を自社で行うことになりました。「シェアハウスとして運営するには神楽坂から少し離れていて、管理が難しくなると思ったので、海外からの友人たちが訪れたときのために、いっそのことホテルにしようと考えたんです」。ここでは短期的に滞在しながら地域の文化にも触れてもらいたいと考え、「少し短めに暮らすシェアハウス」をコンセプトに据え、施設名もその思いを反映して『SHORTsuido』と名付けました。

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一階の『BANRAI HANTEN』は、レストランとカジュアルの中間という位置付けです。「台湾料理を選んだ理由は、軽いおかゆや豆乳が朝食に適していること、脂っこくない料理がワインと相性が良いからですね。また、店名をアルファベットの『BANRAI HANTEN』にしたのは、もともとあった『萬来飯店』が地域に根ざしたレストランであったことを聞き、その響きを継承したかったからです。実際、地域の方々からは『萬来の名前を引き継いでくれてありがとう』という感謝の言葉が多数寄せられています。ダイナーにはコーヒーが欠かせませんので、早稲田にあるコーヒーショップ『Stroll』にお願いし、ショップインショップ(『Stroll_in』)として入ってもらいました」とクマさん。

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『BANRAI HANTEN』のオープンにあたり、業務用としてコモンのプレート類を導入していただきました。クマさんにコモンのプロダクトの印象を伺うと、「自分が作っている空間に非常に馴染むと感じています。コモンの器は使いやすく、緊張感がなくリラックスして使えるのが魅力です。一般的な器には、格好良すぎて料理を盛り付ける際に緊張してしまうものもありますが、コモンのプレートにはその要素がなく、料理が自然と映えるように設計されています。サイズが豊富で、白とグレーの色合いが台湾料理との相性が良く、ダイナーのカジュアルな雰囲気にもぴったりです。料理の見た目を美しく引き立てるだけでなく、並べたり積み上げたりした際の印象が、空間作りにも貢献してくれています」と嬉しい回答が。

カラフルな色展開のコモンですが、あえて白とグレーで統一することで空間を引き立てる存在に。

今回は一部のお皿にロゴの転写を行いましたが、これはクマさんにとって初めての経験だったそうです。「最初は料理をどのようにしようか決めていなかったので、料理のバランスを考えつつ、工事中のためキッチンもなく、想像を膨らませながら進めていきました。多くのプロダクトはそのもので成立しますが、お皿は料理がのって初めて完成します。シェフと一緒に、器が料理をどのように支えるか、どのように見せると美しくなるかを考えました。データをプリントして、お皿の上に置いてイメージを膨らませたり、料理と器が調和する瞬間を思い描いたりして、いい時間でしたね」とそのプロセスを楽しんでいたと話します。

お店のロゴがお皿のフチにぐるりと入ったデザインのオリジナルプレート。今回はオーバルプレート190mmとプレート180mmの二種類を作成させていただきました。

今回、ご自身でデザインしたロゴを、お皿のカーブに合わせて転写しています。この方法の転写は歪みが生じやすいため、高度な技術を持つ職人さんにお願いしました。クマさんは完成したプレートを手に取り、そのクオリティに満足している様子。今後、コモンの製品が『BANRAI HANTEN』にとって料理の魅力を引き立てる大切なパートナーとなり、訪れる人々の新たな食体験の一部となることは、私たちにとっても大きな喜びです。

ロゴの転写もうまくいき、大満足とのこと。「いつかお皿のデザインもやってみたいですね」とクマさん。

最後にクマさんの近況についてお聞きしました。東京の秋といえばデザインウィーク。現在、東京ミッドタウンで『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH』が開催中です。今年のテーマは「つむぐデザイン」。クマさんはインスタレーション作品『リレキの丘』を手がけています。

「“つむぐ”にはさまざまな解釈がありますが、僕自身は公共を作るイメージを持っています。公共建築だけでなく、さまざまな作り方がスタート地点です。公共のものこそ、紡がれていくべきだと思います。そこで、自由な丘のような建築を作り、訪れる人々のログや履歴を残せたらなと考えました。公共的なものでありながら、帰属感を感じてもらえればと思います。フェンスや橋の柵にカップルが南京錠をつけたり、おみくじを神社の境内に結んだりする行為の延長として、建築を考えています。ぜひ遊びにいらしてください」

このイベントは11月4日まで開催されています。お近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。また、『BANRAI HANTEN』では、クマさんが作り出す世界観とともに、コモンの使い勝手の良さをぜひ体感してみてください。

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「リレキの丘」

期間:2024年11月4日(月・振休)まで

会場:東京ミッドタウン 芝生広場

住所:東京都港区赤坂9丁目7−1

時間:11:00~19:00

BANRAI HANTEN

住所:東京都文京区水道2丁目19−11 SHORTsuido 1F

instagram:@banrai_hanten

クマタイチ
建築家。TAILAND主宰。
1985年、東京都生まれ。ニューヨークの設計事務所に勤務を経て、2020年から東京を拠点に活動し、設計とシェアハウスなどの運営を行うTAILANDを始動。「隈研吾建築都市設計事務所」のパートナーも務める。
代表作に「SAZAE」「SHAREtenjincho」「SHOPPE」など。

Instagram: @taikuma
https://taichikuma.jp/

撮影: 阿部健 @t_a_b_e