【Common Journal vol.4 「田中時宗さん」】

コモンにまつわる日常の風景や物語をお届けする『Common Journal』。第4回目のゲストは、一般社団法人センターポールの代表理事、田中時宗さんです。

一般社団法人センターポールの代表理事の田中時宗さん

センターポールは2015年から、パラスポーツ(障がいのある方々が参加する競技)を通じて、障がいの有無にかかわらず、誰もが輝ける社会を目指して活動しています。2022年からはこの取り組みをさらに広げ、放課後等デイサービスとブラジリアン柔術道場の運営を始めました。地域社会での共生を目標に、障がい者と健常者が共に成長できる場を提供しています。

今年8月には、放課後等デイサービス『CENTERPOLE ADAPTIVE KIDS』では、コモンのB品※を活用したワークショップを開催しました。今回は、その模様をお伝えするとともに、田中さんの活動理念やその背後にある想いについて伺いました。

※B品:私たちのワークショップでは、ホクロのような点や色ムラなどを理由に、正規流通していないファクトリーセカンド品(B品)を使用します。西海陶器グループにおいては、そのような器も廃棄せず、生産面や環境に配慮して、ポジティブに使用する方法を提案しています。

「田中さん、こんにちは!お元気ですか?」「こんにちは!元気だよ。◯◯も元気そうだね!」

この日は猛暑日。そんな中でも、子どもたちが次々とやってきます。まるで近所のお兄さんやお姉さんと気軽に挨拶を交わし、そのまま輪に加わるような、親しみやすい雰囲気です。ここは、田中さんが 運営に携わるブラジリアン柔術の道場「カルペディエム世田谷」。柔術のレッスンがない日中、 この道場は放課後等デイサービス「CENTERPOLE ADAPTIVE KIDS」の運動施設として活用されています。

「この道場を開いた理由の一つは、ブラジリアン柔術があらゆる障がいに対応できるスポーツだからです。障がいのある方も健常者も、マットの上で一緒にプレイできる、真のダイバーシティスポーツと言えます」と田中さんは語ります

「放課後等デイサービス」とは、発達障がいや知的障がいのある児童・生徒を対象に、日中の活動や運動支援を行う福祉サービスです。小学一年生から高校三年生までを受け入れています。

コモンを運営する西海陶器グループは、B品の陶磁器に転写紙を貼り付けるワークショップを国内外で開催しています。今回は、センターポールの活動に共感し、ご一緒に何かできないかと考え、この場をお借りしてワークショップを開催しました。

まず、田中さんに「CENTERPOLE ADAPTIVE KIDS」を設立した経緯についてお聞きしました。

「障がいのある子どもたちに運動の場や機会を提供してきましたが、特に発達障がいや知的障がいを持つ子どもたちには、十分な運動機会が少ないと感じていました。2020年のパラリンピックをきっかけに障がいについての理解は深まりましたが、競技の認知度や参加できる場はまだ限られています。障がいは身体的なものだけでなく、目に見えないものも含まれます。パラリンピックを目指すことだけが目標ではなく、障がいの特性に応じた運動の場が不足していると感じていました。そこで、単発のイベントではなく中長期的な支援が必要だと考え、放課後等デイサービスという形で、行政のサポートを受けつつ国の制度を活用して運営を開始したのがきっかけです」

この日のワークショップは午前・午後の二部制。まず、動画を使って陶磁器がどのように作られるのか、またワークショップがどのように進行するのかを説明しました。陶磁器は転写シートを貼り付けて再度窯に入れることで、その絵柄がしっかりと定着します。使用する器はコモンのB品ですが、製品としての機能は十分です。

転写紙を切る、貼る作業は、職員の方々と西海陶器のスタッフが細心の注意を払いながらサポートしました。真剣な表情と笑顔が交錯し、個々の工夫によって器に新たな表情が次々と生まれます。B品は新たな価値を得て、唯一無二の作品へと姿を変えるようです。仲間や職員の方々に作品を見せ合いながら、器を通じて自然とコミュニケーションが生まれる光景に、私たちも思わず笑みがこぼれました。

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「今回、新しいことに挑戦できました。子どもたちの新たな一面や独自の発想に触れることができ、とても素晴らしい体験だったと思います。子どもたちがこのワークショップの意図をすべて理解していたかどうかは分かりませんが、何よりも重要なのは、彼らが新しい経験を積むことです。 学校や家庭以外の社会との接点を作っていただけたことが、彼らにとっても大きな財産になったと思います」と、田中さんから嬉しいお言葉をいただきました。焼き上がりまで1ヶ月。完成品をお届けするのが、私たちも待ち遠しいです。

作業を終えた子どもたちは、マットの周りを走り回ったり、相撲をしたりと元気に遊びます。西海陶器のスタッフも一緒になって楽しみます。ここで田中さんに、将来のビジョンについて伺いました。

「放課後等デイサービスに関しては、子どもたちが安心して通い、さまざまな選択肢を提供できる場にしていきたいと考えています。将来的には、障がい児から障がい者へと成長していく彼らが、社会に出て働くことや自立することを実感できるような場を提供したいと思っています。

また、恋愛も大切な経験だと考えています。障がいがあると恋愛を我慢しなければならない、結婚は難しいという声を聞くことがありますが、人を好きになることは自然なことです。恋愛の経験がないまま大人になることは健全とは言えません。学校では教えてくれない恋愛について、先輩や友人に相談できるような機会を作れたらと考えています。加えて、保護者の方々とも性についての理解を深める場を設けたいと思っています」と語ります。

ワークショップを終えると、嬉しいサプライズが待っていました。参加していた西海陶器のスタッフやフォトグラファーに、子どもたちからお花のプレゼントが。その心遣いに、思わず胸が熱くなりました。

私たちは、障がいについての理解が十分ではありません。彼らの生活や社会環境についても、深く理解しているとは言えません。しかし、今回のワークショップを通じて「私たちにできることは何か」「福祉の分野で、陶磁器がどのように役立てるのか」を考え、社内で意見を交わす貴重な機会を得ることができました。また、「多様性」という言葉が謳われる今日において、その意味と使い方を再考する日々でもあります。

コモンならびに西海陶器グループは、障がいのある方々とも、未来に向けて一歩一歩、共に歩んでいきたい。そう強く願っています。

〈プロフィール〉

田中時宗
1987年生まれ、北海道札幌市出身。一般社団法人センターポールの代表理事として、パラスポーツや障害福祉の分野で、スポーツを基盤とした運動機会やダイバーシティ・インクルージョン教育を行う。また、2022年には同法人の理事であり、義足のアスリート・堀江航とブラジリアン柔術「CARPEDIEM世田谷」をオープンし、地域に根ざした柔術スクールの運営を行っている。

2020年、アスリートやスポーツによる社会貢献活動を表彰する「HEROsAWARD 2020」を受賞。

一般社団法人センターポール
https://www.centerpole.jp

CARPE DIEM世田谷
https://www.carpediemsetagaya.com

日本財団「HEROs AWARD 2020」
https://sportsmanship-heros.jp/award/y2020_centerpole/

転写紙ワークショップに関するお問い合わせは、以下までご連絡ください。

東京西海株式会社  TOKYO SAIKAI CO., LTD.

東京都世田谷区瀬田4-29-11

Tel.03-6431-0062

info@tokyosaikai.com

https://tokyosaikai.com

撮影: 阿部健 @t_a_b_e