【Common Journal vol.3 「STUDIO DOUGHNUTS」】
2024年7月よりスタートした「Common Journal」。この企画では、コモンに関わる日常の風景やストーリーをお届けします。第三回目となる今回は、鈴木恵太さん・北畑裕未さんご夫妻によるデザインユニット「STUDIO DOUGHNUTS(スタジオドーナツ)」さんに登場いただきました。
誕生から10年を迎えたコモンと、時を同じくして来春で設立10年目を迎える「STUDIO DOUGHNUTS」。それぞれのフィールドで、お客様やクライアントの思いに寄り添い歩みを進めてきました。これまでの10年間、STUDIO DOUGHNUTSさんが走り続けられた理由とは何だったのでしょうか。お話をうかがう中で、そこにはお二人の強みである独自性や、クライアントや仕事仲間との信頼関係が、デザインの根底に大きく根付いていることがみえてきました。STUDIO DOUGHNUTSさんが、手掛けられたお仕事をいくつか振り返りながら、お二人のクリエーションに対する思いなどを尋ねてみました。
STUDIO DOUGHNUTSの事務所は、東京・中央線沿線にあり、築50年程の木造2階建ての建物を改装して作られました。改装前は、1階が時計店、2階はそろばん塾だったそう。様々な椅子や複数の合板など、沢山のアイディアのエッセンスが散りばめられた空間に足を踏み入れると、地域の盆踊り大会の協賛で制作されたという、「スタジオドーナツ」の粋な提灯がお出迎え。
一階の多目的スペースで挨拶を交わし、席に座らせていただくと、「アイスコーヒー飲めます?オレンジジュースもありますよ。アイスコーヒーが苦手な方は、豆乳もありますので」と裕未さん。ホスピタリティ溢れる細やかなお気遣いに、場の空気も解け、私たちの気持ちも和らぎました。程なくして、恵太さんも2階の作業部屋から合流し、穏やかな雰囲気の中でインタビューは始まりました。
まず、これまで手掛けたお仕事の中で印象深かった案件をおうかがいしました。
「最初に、独立のきっかけとなったのが東京・学芸大学の『FOOD & COMPANY』でした。当時は、前職の仕事を続けながら、休みの日や仕事後の夜など、限られた時間を使って内装デザインを手掛けたのがSTUDIO DOUGHNUTSの始まりです」
「東京・神田のレストラン『the Blind Donkey』も印象的でした。
シェフの一人であるジェロームさんは、ベースはフランスの方で、職人気質な方でした。一年の半分位はアーティスト活動などもされていて、ご自身で手を動かして何でも作られる方なんです。実際にお店に立つ使い手側と、何度もコミュニケーションを重ねて、相手の意見も組み込みながら一緒にお店を作り上げていく実感がありました」
「もう一つは、長野の宿泊施設『THE PARKLODGE上高地』です。
ここは、初めての宿泊施設の依頼でした。もともと昔は、修学旅行生が泊まるような場所だったようです。クライアント側からの依頼内容は、『カジュアルなホテルを作ってほしい』ということでした。そこでは、部屋の内装だけでなく、レストランの改装なども徐々に手掛けていきました。改装後、PARKLODGEのシェフが、新しく生まれ変わったレストランの内装を見た際に、感動して涙が出たと聞いてすごく嬉しかったです」
また、STUDIO DOUGHNUTSさんが手掛けた案件の中に、東京・洗足池にあるカフェ、 AOI COFFEEさんがあります。こちらでは、オープン当初よりコモンの食器やカトラリーを取り扱っていただいています。
AOI COFFEE さんを手掛けられた際のエピソードも、STUDIO DOUGHNUTSのお二人に尋ねてみることに。
「古民家や中古物件のリノベーションなどはこれまで多く手掛けてきましたが、これまでと違ったのは、ピカピカの新築物件であったこと。機密性が高い設備だったので、断熱などの心配事が始めからありませんでした。また、オーナーの持ち物件ということで、外装含めできることの自由度が高かったのも印象的です。元からあるもののどこを残すか、という問題があるところからの出発点ではなく、建物自体に問題がないからこそ、床も壁も天井も制限なく考えることのできる面白さがありました。店内で使用するオーブンのみ、客席から隠したかったので、あえてそこに大きな柱を作り、漆喰を職人さんに塗ってもらいました。漆喰の柱の壁と、店内の壁の微妙な質感の違いを出すことで個性を表現しました」
大袈裟に見えない程度に各所に意匠を残したり、自由な発想の中でSTUDIO DOUGHNUTSらしさを存分に盛り込んだそう。
「店内の内壁の色味や、インテリアにもこだわり、スツールは友人の横田純一郎さんに依頼しました。所々に遊びの要素を盛り込み、店名でもあるA,O,Iの文字をモチーフに構成されています。最初から最後までこちらで決め切らず、相手に委ねられる余白を残したデザインを意識しました」
「店内の照明も、ニューヨークの照明ブランド・RBWを採用し、デザインウォールライトを使用しました。また、天井照明のレールカバーも、コの字型にすることで根元が見えず、既製品感が見えないようにしました」
AOI COFFEEのスタッフさんへも、普段お使いいただく中でのコモンの使い心地を聞いてみました。
「コモンのプレートは、丁度良い厚みで、手に触れた際に温かみが感じられて良いんです。洗う時も、しっかりと丈夫なので割れにくく、扱いやすいです。ややくすみがかった白いプレートに、お店のブルーのロゴがマッチしていると思います。マグカップは、飲み口の厚みが丁度よく、少量ずつ口へ運べるサイズが気に入っています。店内の柔らかい白を基調とした内装と、食器類が調和していて、使っていて心地よいですね」
また、STUDIO DOUGHNUTSさんからも、コモン製品の印象について聞いてみました。
「コモンのサイズ感や色味は、日本の文化やライフスタイルにとても合っていると感じました。これまで多くの研究をされて、今の形が生まれたんだろうと想像すると、実際に食卓で囲みたい気持ちが湧いてきます」
プロダクトブランドを10年続ける意義について—
「失敗と成功の積み重ねがもたらす説得力があると思います。新しいブランドが立ち上がる時の高揚感や話題性も好きですが、10年続けることの蓄積は、何にも変え難いものがあると思います。プロダクトにその重みを感じさせない軽やかなデザインがニクイです!」
最後に、STUDIO DOUGHNUTSさんへ、今後の展望を聞いてみました。
「ここ数年で、社内のスタッフも増えてきました。前職では、多くの人が集う場所にいさせてもらえたので、スタッフのみんなにも、これから加わってくれる人にも、事務所で働きながらそこで次に繋がるような出会いや、職人さんとのコミュニケーションの取り方など、私たちから伝承できたらいいですね。そういった次世代の後進育成も視野に入れて、どんどん盛り上げていきたいです。また、ロングスパンで進行していく大きなプロジェクトへの挑戦も楽しそうだなと。面白い人が社内に更に増えていくことで、仕事の幅がもっと広がっていったら嬉しいですし、これまで培ってきたことが継承され、未来へ繋がっていくといいなと思っています」
今回、STUDIO DOUGHNUTSさんより、「10年続けること」のテーマをもとに、様々なお話をおうかがいすることができました。ところで、ユニット名の由来はどこからきたのでしょうか。
「きっかけとなったのは、“all you can eat press”の松尾ゆきさん。彼女が、ニューヨーク在住時ドーナツ屋さんのマップを作られていた際に、アメリカ人にとってドーナツは、日本人の 『おにぎり』 のような日常的な存在。と話されていたことに共感し、私たちもそういう存在でありたいな、という気持ちから、“STUDIO DOUGHNUTS”としました。また、よくできました!という意味合いの、『二重丸◎』という意味も込めています。本当によくドーナツ屋さんと間違えられるのですが」
美味しそうな名前の背景には、日本人のソウルフードであるおにぎりのような、華美過ぎず、相手の日常に寄り添う存在、そんな思いが込められていました。お二人の気さくで魅力的なお人柄と重なるような、素敵なエピソードをうかがうことができました。
これからも、ドーナツの輪のように年輪を重ね、思いを膨らませ、お互いに歩みを進めていきたいですね!
〈プロフィール〉
STUDIO DOUGHNUTS:鈴木恵太と北畑裕未による設計事務所。
有限会社ランドスケーププロダクツを退職後、2015年に設立。
ありふれた素材を用いながら、作り手の気配とほんの少しのユーモアを感じさせるようなものづくりを目指している。
website: https://www.studio-doughnuts.com/
instagram:@studio_doughnuts
今回「Common Journal」記事内でご紹介させていただいたAOI COFFEEは、オープンから4周年を迎えられました。これから秋も深まり、外出やテラスでの食事も楽しくなる頃。散策がてら、足を運ばれてみてはいかがでしょうか。
AOI COFFEE(アオイコーヒー)
住所:東京都大田区上池台2-1-15
営業時間:11:30-18:00
水曜日定休
instagram:@aoicoffee_tokyo
撮影: 阿部健 @t_a_b_e