【Common Journal vol.12 「V・ファーレン長崎 田河毅宜さん」】

コモンにまつわる日常の風景や物語をお届けする『Common Journal』。今回の舞台は、波佐見焼の産地・波佐見町がある長崎県。第12回目のゲストは、長崎をホームタウンとするJリーグのサッカークラブ『V・ファーレン長崎』の代表を務める田河毅宜(たがわ たけのり)さんです。

V・ファーレン長崎は、日本のプロサッカーリーグ『Jリーグ』のJ2カテゴリーに所属し、最近の試合でも勝ちをおさめる、今勢いのあるクラブ。

ちょうど1年前の2024年10月、長崎市の街中に新しくオープンしたサッカースタジアムを中心とした複合施設「長崎スタジアムシティ」でお話を伺いました。

2025年でクラブ創設20周年を迎えたV・ファーレン長崎。

その歩みはどんなものだったのでしょうか。

「節目といっても年月はただ過ぎていくもので。フルシーズンを過ごすタイミングでちょうどこのスタジアムが完成して、エンブレムも一新しました。20年という時間をふりかえるというよりは、歴史を土台にして、また新たな挑戦をしていくという感覚で今年の20周年を過ごしています」

青々とした芝と開かれた空。新しいスタジアムには気持ちのよい空気が流れています

2017年、V・ファーレン長崎はトップスポンサーであったジャパネットグループの一員になりました。このたび完成したスタジアムは、グループにとって非常に意味のあるものだといいます。

「このスタジアムを造った背景には、『長崎をもっと魅力的な県にしたい』という思いがありました。ジャパネットグループは佐世保で創業して、いわゆる県北の地から始まった企業なのですが、ご縁があって県央の諫早(いさはや)市を本拠地とするプロサッカークラブがグループに加わりました。

そして、今回新たに県南の長崎市にスタジアムできて……県内全域を盛り上げていけるチャンスをもらえたと思っているんです」

長崎スタジアムシティはさまざまな飲食店にホテル、ショッピングも楽しめる複合施設

田河さんは、人口流出や県の産業の縮小といった大きな課題を見据え、ビジネスの観点からの魅力を高めていくべきだと語ります。

「クラブとこのスタジアムが、県民のみなさんが一致団結できるシンボルとなることを目指しています。スタジアムシティプロジェクトが立ち上がったときから掲げているのは、『感動とビジネスの両立』というテーマ。スポーツは感動を与えるものですが、社会貢献活動のようになると経営が立ち行かなくなることも多々あるんです。スタジアムシティを通して、ビジネスとして自立できる存在になる。そうすることで、50年、100年続く“持続可能なクラブ”になっていくことが大切ですね」

レンガを購入された方、企画に賛同された著名人や県内の21市町からのメッセージや名前が刻まれたレンガが集まって、大きな文字になっています。長崎をひとつに感じるシンボルになりそう

大きな夢は堅実な一歩から。

実際に施設内を歩いてみると、試合の行われない日でもファミリーやお年寄りの方など、老若男女問わず多くの方が来場しており、開業して早くも地域に密着した場となっていることを実感します。

ロゴの入った帽子を身に着けた方や、かわいらしいマスコット『ヴィヴィくん』のイラストが入ったグッズを手にする姿も見られます。

V・ファーレン長崎のファンにとっても、日常の延長にある場所として親しまれているようです。

「新しいスタジアムになってから、来場者の平均年齢層が若干下がった気がしています。Jリーグは1990年代の開幕当初に20~30代のファンが中心となって、熱狂的に盛り上げてきた背景があるんです。その方々がコア層だとして、その次にくるのがより若い世代だと持続可能なクラブといえますよね」

アクセスのしやすい場所にスタジアムがあるという環境づくりだけでなく、新しいグッズの展開なども意識的に行っていったそうです。

今年、コモンの販売元である西海陶器株式会社(長崎県東彼杵郡・波佐見町)がV・ファーレン長崎のスポンサーとしてパートナーシップを結んだことからご縁がつながり、コモンのプレートと丼にロゴを転写した20周年のグッズを制作いただきました。

「『どういう人たちに使ってほしいか』を考えました。長崎にいると子育て世代などにも“波佐見焼ブランド”というものがすごく支持されているのを感じるし、そうしたものに囲まれている空間・ライフスタイルは理想だと思うんですよね。若い世代に選ばれる波佐見焼とのコラボというのは、クラブとしてもやりたかったことでした。

今回は周年のアイテムでしたけれど、せっかくなら、もっと日常に溶け込むようなアイテムも一緒につくっていきたいな、と思っています。試合を楽しむためのグッズ以外に、生活のなかでもクラブを感じてもらえるようなものがあれば嬉しいですね」

長崎の街中にあるスタジアムに、日々の暮らしのなかで使えるグッズの展開。スポーツと日常とがもっと身近なものになるための一歩なのだと納得しました。

じつは、同施設内にある『スタジアムシティホテル長崎』においても、コモンを導入していただいています。

ホテルに泊まる方の多くは、サッカー観戦に来ています。

青々とした芝が美しいスタジアムが一望できる朝食会場には、コモンのマグやプレートがずらり。

朝食を食べながらスタジアムの芝と空を眺められるだけでなく、ドアから一歩外にでると、すぐに観客席へと足を踏み入れることができる近さです。

まさしく、人々に特別な熱狂と希望をもたらすスポーツと、日常に彩りを添えるテーブルウェアがひと続きになっているような光景が広がっていました。

この開かれた景色こそ、施設そのものの思想を象徴しているように感じられました。

「ホテルからの眺めもそうですが、このスタジアムは天井が開いていて、風の抜ける造りになっています。そうすることで敷居を下げ、ライト層の方が足を踏み入れやすくなるメリットがあります。一方で、歓声が上がっても外に抜けてしまうんですよね。観客の方の熱量をもう一段階上げるようなものすごい熱狂を、クラブ側がつくり出さないと。

日常と非日常の垣根がないということは、とてもポジティブなことでありながら、大きな課題にもなります。わざわざ試合を観に訪れる価値は、こちらで徹底的につくっていかなければならないと思っています」

スタジアムというハード面に、あえて難しい課題を残した長崎スタジアムシティ。

しかし、地元の方やファンがふだんから慣れ親しむ場所であるからこそ、試合の開催される日にぐっと特別な空気に包まれると、よりいっそう大きな熱狂と感動が生まれるのでしょう。

田河さんには、クラブとしての今後の展望も伺いました。

「勝つためではなく、地域を盛り上げるために、まずは『J1』に昇格したい。現状のJ2よりも高いカテゴリーであるJ1には、大きな都市に所属するクラブが多いんです。それらのファンがアウェーの試合のときにこのスタジアムに来てくれたら、県全体の観光も含めてもっと盛り上がりますよね。

その次は、『アジアチャンピオンズリーグ』というトップリーグに出場することで、世界にも長崎の存在を知ってほしいです。

さらに、世界に知られたチームを招いて“長崎”という地で試合を行うことができれば、世界的な平和に対するメッセージも伝えられるのではないかなと。そうしたさまざまな観点から、世の中に対しての影響力を強めていきたいというのが、クラブ共通のミッションですね」

長崎から世界へ。田河さんの語る未来は、決して遠い理想ではなく、地に足をつけて一歩ずつ築こうとする挑戦でした。

スポーツの熱狂は特別なひとときで終わるものではなく、日常の延長として根づいていくもの。「地域を盛り上げる」という言葉の裏には、人々の暮らしをていねいに見つめる視点があります。

V・ファーレン長崎の挑戦は、勝敗を超え、そんな日常のなかにある平和を育てているように感じられました。

わたしたちも同じ長崎の地から、このクラブを見守り、応援していきたいと思います。

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〈プロフィール〉

V・ファーレン長崎(V・VAREN NAGASAKI)

2005年に設立された長崎県をホームタウンとするプロサッカークラブ。

クラブ名は、オランダ語で「勝利(VITÓRIA)」「多様性(VARIEDADE)」「平和(VREDE)」を意味する“V”と、

ポルトガル語で「航海」を意味する“Varen”に由来。

Jリーグに所属し、スポーツを通じて地域の発展と平和の発信を目指している。

website:https://www.v-varen.com/

instagram:@vvarennagasaki_official

撮影: 田崎遼太